4月は純真無垢

あんまり長い文章は書けない。不妊治療と妊娠の記録。

(2022年3月8日 参議院 予算委員会公聴会)中室牧子教授による口述部分書き起こしと乱暴な感想

こちらのニュースに関して。

news.yahoo.co.jp

慶應義塾大学総合政策学部教授中室牧子氏による「19年10月に始まった幼児教育無償化について「財政状況が極めて厳しい中、高所得世帯ほど手厚い再分配となっている」との批判に対して、幼保無償化も所得制限の流れかとTwitterでは子育て世帯からの不満が噴出している…

もうすぐ子どもが生まれる予定であり、保育料が馬鹿たけぇ自治体に住んでいる身としてはやはり気になるニュース。

当方、出産予定日を明日に控えた妊婦だけど生まれそうになく暇なので、公聴会の中室教授の部分だけ見て書き起こしてみた。書き起こしのあとに、自分の乱暴な感想も付け加えておきます。

 

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2022年3月8日

参議院 予算委員会公聴会ー第1回委員会室ー

公述人:慶應義塾大学総合政策学部教授 中室牧子

 

(※太字部分は個人的に気になった箇所・乱暴な感想につながる部分です)

 

本日は口述をさせていただく機会を賜り、誠にありがとうございます。
経済財政運営に関して、中でもとりわけ人への投資の効果をどう高めるかという観点で、私の専門であります教育経済学の研究成果に基づいてお話しさせていただきます。

資料の1ページ目、こちらをご覧ください。
これは2020年に経済学の最も権威ある国際学術誌の一つであるクォータリー・ジャーナル・オブ・エコノミクスに掲載された論文の図表であります。これは過去50年間にアメリカで行われた133の公共政策の費用対効果を算出したものです。
縦軸に費用対効果、横軸に政策の対象となる個人の平均的な年齢をとったグラフです。
費用対効果の高い政策は左側の上部、すなわち政策の受益者の年齢が低いときに行われているものに集中していることがわかります。
公共政策は当然社会保障職業訓練、現金給付など多岐にわたりますけれども、その中で最も費用対効果が高いのは子供の教育と健康への投資であるということになります。
この論文では子供の教育や健康への投資を行なった政府の政策の多くは、子供が大人になった後の税収の増加や社会保障費の削減によって、初期の支出を回収できていることも示されています。

しかし子供の教育や健康について行われる支出であったとすれば、どのようなものでも費用対効果が高いというわけではありません。

経済学では需要と供給の理論を用いて多くの経済現象を説明します。教育についても例外ではありません。
このため私たちは教育政策には教育の需要を喚起するような刺激策や再分配政策と、教育の質を高めるような供給側への投資というものを分けて考えます。

教育需要を喚起するような政策は当然時として有効なこともあります。
例えば開発途上国で就学率が低い場合に、主に貧困世帯の子どもたちの学費を無償化することによって、就学率を一気に向上させたというような事例は枚挙にいとまがありません。
しかしながらこのような教育需要を喚起する目的で行われた再分配政策は子どもの学力や学歴に与える影響は一時的で、かつ費用対効果に優れないということを示す研究も少なくありません。

今の日本においても、再分配政策があまりうまく機能していない可能性があります。
資料のこちら、3ページのほうをご覧ください。
こちらは兵庫県尼崎市から提供をうけた、市内の保育所に支払われる保育料の分布でございます。
一番下にあります緑の分布は2000年のもの、一番上の黄色が2015年のものです。
これを見ると2000年時点では保育料の利用料は0円のところが最も高くなっているということがわかります。
保育所はご承知のとおり、児童福祉施設のひとつであり、保育料は応能負担となっていますから、2000年の時点では経済的に苦しいご家庭における子供の養育を支援する福祉的な役割を担っていたということが分かります。
しかし、2015年になってみると、今度は最も保育料の高い家計が多くなっているということが分かります。
これは、この15年の間に保育所の役割が、福祉から共働き世帯へのサポートへと変化してきたということを意味します。
このような状況で一律に幼児教育の無償化が行われると何が起こるのでしょうか。

2019年10月に開始された幼児教育無償化の支出の多くは、高所得世帯への再分配となったと考えられます。
同様のことは他の自治体でも生じており、例えば東京大学の山口慎太郎教授らによれば、神奈川県横浜市では世帯年収1130万円以上の世帯が幼児教育無償化によって受けた恩恵は1年間で約52万円、一方360万円の世帯では15万円程度であったということです。
このように世帯の経済状況を把握することなく、一律の無償化を行えば、再分配の機能を果たしえないことが分かります。
我が国の財政状況が極めて厳しい中では、高所得世帯ほど手厚い再分配を受けるということは国民の理解を得られないものと考えます。

 

一方、真に必要な人には十分な支援が行われているのかというと、この点にも疑問が残ります。
資料のこちら、4ページのほうをご覧ください。
これは私の研究室でNPO法人かたりばとともに、コロナ禍における経済困窮家庭の小中高生を対象にした調査の結果です。
これを見ると、経済困窮以外の問題を同時に抱える世帯が、実に全体の40.2%に上っています。
経済困窮に加えて、19%が発達障害、7%が身体障害があり、13%が不登校となっています。
このように複数の問題が同時に生じると、一気に困難な状況に陥ります。
例えばですが、ひとり親で、経済的に困窮しているというのに、学齢の小さい子供が不登校になり、学校に通わなくなってしまったら、親は昼間子どもを一人に置いたまま、就労することは難しいでしょう。
しかし、発達障害や身体障害が福祉保健部局、不登校教育委員会、経済困窮は福祉部局の担当であり、行政の縦割りによって保健・教育・福祉の所管横断的な情報共有が妨げられ、重層的な課題を抱える子供に対する支援が十分に行われているとは言えません。
この結果、私たちの分析では、この4ページで示されているとおりですけど、複数の課題を抱えている世帯の子どもというのは、経済困窮のみの世帯の子どもと比較すると、学力や非認知能力、問題行動などの面において、不利になっていることがわかります。
そもそも、経済困窮世帯の子どもたちはそうでない子どもたちと比較すると、様々な面で不利になっているにも関わらず、それよりももっと不利になっているということが分かるわけです。

 

以上のようなことを踏まえますと、高所得世帯ほど恩恵があるような再分配を行ったり、あるいは、縦割り行政によって真に支援が必要な子供に十分な支援が行われていない、という状況を改めなければなりません。
必要な人に、必要なだけの支援を迅速に届けるということが必要です。
5ページの方をご覧ください。

 

このことを実現するために、今アメリカで起こっている、新たな動きが参考になります。
ノーベル経済学賞の最有力とみなされている、ハーバード大学のラージチェッティらの研究グループ、オポチュニティインサイツがCOVID-19の影響を計測することに目的に開発した、エコノミックトラッカーという仕組みがあります。
これは複数の民間企業から匿名化されたデータの提供を受け、個人消費・雇用・売り上げなどに関する日時のデータを用いて、リアルタイムに経済状況を把握することができるようになっています。
これらを目的に応じて公的統計や行政記録と照合し、分析を行っています。

この皆さんに見ていただいております5ページの図表というのは、バイデン政権下で行われた現金給付の効果を明らかにするために行われた分析です。
緑のグラフ、こちらはですね、バイデン政権下で行われた、1回目の現金給付の効果になっています。
ご承知のとおり、バイデン政権では3回にわたり現金給付が行われており、2020年3月にまず1回目、1200ドルの支給を決定し、同年12月に600ドルの追加給付が決定しています。
チェッティ教授らの研究グループは、クレジットカードの支出データを分析して、この緑のラインであらわされている1回目の給付が行われた直後に、ほとんどすべての所得階層で消費が増加しているということを明らかにしています。
しかし、オレンジのバー、2回目の現金給付が届き始めたころ、7.8万ドルを超える高収入の家計は、ほとんど支出を変化させていません。
同時に雇用のデータを使って、2回目の現金給付が行われる頃には、高所得世帯の雇用状況というのはV字回復していて、ほとんどCOVID-19の悪影響から脱出していたということをと示しています。
この分析はアメリカで行われた3回目の現金給付で、8万ドル以上の家計は支出対象外として、所得制限を設ける根拠となったと言われています。
このように、例えばCOVID-19のようなショックが、いつ・だれに・どのような影響をもたらしたのかということを詳細に分析し、次の打ち手にいかす、データ×政策の動きが加速しています。
データが蓄積されれば単なる所得によって支援を受けるかどうかの線引きをするだけではなく、雇用状況や家族構成にも配慮した、必要な支援を届けることができるようになるでしょう。

 

子どもや保護者のプライバシーに配慮して、個人情報保護法を遵守しつつも、様々なデータの連携をすることで、子どもに対する支援にもメリットがあります。
第1に、データによって、複数の困難を抱える子供を特定して、必要な支援をプッシュ型で迅速に行うことができるようになるということです。
申請手続きが面倒くさいと、貧困世帯の成績優秀な高校生が大学に進学するための出願書類を出すことを諦めてしまうという有名な研究がありますから、このようなことが起きないよう、行政が国民側からの申請を待つのではなく、能動的に支援を届ける、プッシュ型の支援というは非常に重要です。

また、予防的な介入を行うことも重要です。
例えば母親のストレスホルモンである、コルチゾールの上昇にさらされた胎児は、生まれた後の健康や学歴に悪影響があるということを示した研究があります。
学歴の低い母親ほど、妊娠中のコルチゾールのレベルが高く、貧困の世帯間連鎖に影響する可能性があります。
子どもが生まれてからではなく、生まれる前から、貧困状態にある母親への支援を行うことの重要性が示唆されます。
多くの研究が、予防的な介入は問題が生じた後の政策介入よりも、効果が大きく、コストが小さいことを示しています。
加えて、虐待、自殺などを放置されば、生命の危険に及ぶ異変を速やかに察知し、介入を行うことも重要でしょう。

我が国でこうした動きを加速するため、私自身も非常勤でデジタルエデュケーション統括として関わるデジタル庁では、子どもに関する各種データの連携による支援実証事業において、個人情報保護条例を遵守したうえで、自治体とともに保健、教育、福祉などの所管を越えたデータ連携の実証事業を開始します。
令和5年度以降は創設が予定される、子ども家庭庁の司令塔機能の下で、ニーズに応じたプッシュ型の支援につなげていきます。
人への投資をより効果的にするため、データを活用した効果的な政策を実施していただきたいというふうに思います。

 

最後にひとつ強調したいことがあります。
6ページのほうをご覧ください。
こちらは、先ほど教育需要を喚起するために、再分配政策は費用対効果に優れない、ということを申し上げましたが、一方で、教育の質を高める供給サイドへの投資は、費用対効果に優れていることを示す研究は多くあります

これについて我が国では、教育の質の担保を目的として、たとえば保育所設置認可に代表されるような事前の規制というものが非常に重視されてきました。
設置認可においては、施設の面積や保育士の数などが細かく規定され、それを満たしていないと設置が認可されません。
しかし、いったん認可を受けると、その後の事後的な評価はほとんど行われません。
その結果、育ち盛りの園児にスプーン1杯しかごはんを与えなかったという認定こども園に批判が集まったということは記憶に新しいところです。
どう考えても、入口の規制よりも、出口における質保証に力を注ぐべきです。
これは幼児教育のみならず、我が国のすべての教育段階で同じことが言えると思いますが、ここでは具体的に、幼児教育のデータを用いて説明します。

当然自治体において、保育の質を高める取り組みはさまざまに行われていますが、その一つである、第三者評価の結果を見てみると、ほぼ横並びという結果になっているものが少なくありません。
この6ページの一番上の図表をご覧ください。
これは関東のある自治体の全認可保育所の第三者評価の結果ですが、ほとんど、保育所間の差は見られないという結果になっています。

本当に保育の質に差はないのでしょうか。
下の左側の図をご覧ください。
これは私たちの研究グループが、まったく同じ自治体で、まったく同じ年に、発達心理学分野で開発された、保育環境評価スケールという指標を用いて、トレーニングを受けた調査員が保育所の観察調査の中で、約450程度の項目を評価した指標です。
これを見ると、保育所によって、かなり大きなばらつきがあるということが分かります。
そして、下の右の方の図をご覧ください。
これは関東の別の自治体で、3年にわたって認可保育所の保育の質の評価を行ったものです。
そうすると、保育所間はもちろんのこと、年によってもばらつきがあるということが分かります。
同じ自治体から認可を受けた保育所で、同じ保育料が設定されているにも関わらず、保育所によって質に差があるばかりか、入園した年によっても差があるという状況になってしまっているのです。

アメリカやイギリス、ニュージーランドでは、私たちがここで用いたような学術的に妥当な指標に基づいて幼児教育の質をモニタリングする政府機関があり、全国規模で幼児教育の質を向上させる取り組みを行っています。
我が国においても、同様の取り組みを行うことが急がれます。

経済学では2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズヘックマンらの研究業績を中心に、質の高い幼児教育が子どもたちの将来の成果にプラスの影響を及ぼすことを明らかにした研究もあります。
一方で、カナダのケベック州で実施された保育料の大幅な値下げのあと、子どもたちの発達や学力、行動に悪影響があったということを示す研究もあります。
教育・特に幼児教育は、その質が高かった場合、プラスの効果が長期にわたって持続すると言えますが、逆に質が低かった場合、そのマイナスの効果も長期にわたって持続します。
この意味においては、私たちが人への投資の効果を高めるために、なによりも注力すべきは、教育の質の向上だというふうに思います。

7ページ目は本日のまとめになります。

ご清聴どうもありがとうございました。

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以下乱暴で感情的な感想:

 

我が家は世帯年収が1000万円くらい、手取り年収は730万円くらい?中間層の定義は世帯年収300~800万円らしいので、我が家は高所得層世帯に該当するんだろうけど、別に気持ちとしては別に裕福ではない。というか裕福な暮らしの定義が分からない。

住んでいる自治体の保育料は第1子で月額7万円程度なので、年収の12%は保育料で持っていかれることになる。これって、高いの?安いの?個人的には、高いんですけど。

個人的にはこれが3~5歳ではかからないのであれば計252万円が浮くわけで、その分を将来の教育費や個人年金の貯蓄に回せたら嬉しいわけであるけれど、より貧しい子供に再分配すべき、というのも分からないでもない。

でもさ、でもさ、「公共政策の費用対効果の高い政策は左側の上部、すなわち政策の受益者の年齢が低いときに行われているものに集中している」のであれば、もっと他に見直しすべきところないんですか??と思うわけであります。

後期高齢者の医療費負担が2022年から一部引き上げになるらしいけど、すっごい乱暴な言い方して、高齢者への公共政策の費用対効果なんて、ほぼないやろ。全員3割でええやん。そう思うと、なんで子ども欲しい若い夫婦の私たちの不妊治療は全額自己負担だったんだろ…自分は不妊治療保険適用の恩恵を受けられなかったけど、菅さんまじありがと…

「この15年の間に保育所の役割が、福祉から共働き世帯へのサポートへと変化してきた」というのも、それの何がダメなのか。女性も働こう、共働きじゃないと将来的に大変だ、と言われている中で、サポートがあったっていいじゃない。

繰り返すけれど、より貧しい子供に再配分すべきは重々承知。

 

思うのは、何のための子育て支援なんだろうか、ということ。

出生数を増やしたいのであれば、幼保無償化はあまり機能しないだろうなと思う。うちの家庭で言えば、252万円が浮いたとしても、それは例えば二人目・三人目を産もうというきっかけにはならない。出生数を増やすなら、「3人目には月額6万円15年で1000万円支給します」とかのほうがインパクトあるしみんな産むでしょと思う。

こんな記事をみたよ:

「第3子に月6万円」案、政府内で浮上~歯止めかからぬ出生数減少 – ニッポン放送 NEWS ONLINE

とはいえ、子育て世帯は子育てをしていない世帯に比べて支出が大幅に大きく、子育てにデメリットしか感じられない社会であるという感情的な部分って無視できなくない?

ただ、現行の幼保無償化が共働き世帯へのサポートとして機能し、結果として高所得世帯の教育費になっているとしたら、それは富裕層の世帯間連鎖になって、貧困層の子どもは貧困層のまま…というのは確かによくないなと思うよ。

 

このツリーを見て。

「世帯が豊かになるほど産む数は減る」「豊かになったお金は教育費に消える」「保育園無償化ではなく、高所得世帯には高い料金を課し、認可保育園の供給を増やすべき」

すごーく嫌な感情的な言い方をすると、貧困層にたくさん子どもを産ませて、高所得者層はそれを支えて、認可保育所を増やして公共の幼児教育の質を上げようってことかなと。確かにそれがいいかもしれん。

だが高所得世帯に課す高い料金の妥当性は考えてほしい。極端な話、高所得になっても保育料が高すぎて貧困層と自由に使えるお金はたいして変わらないんだとしたら、共働きをして頑張る意味が見いだせない。だったら所得を落として安い保育料の恩恵を受けるよとなる。それって、結果として税収が落ちるし、国にとって損失でしょ。

 

やっぱり子育て世帯の中での予算の付けまわしが良くない。所得税累進課税を上げて、子育てをしているかどうかに関わらずそこから取ってほしいし、高齢者への予算は減らしてほしい。

 

乱暴な感想終わり。
もうちょっと、国の財政や政治に関して、勉強しよ…